第35章 無双学園生徒会執行部。『October』(逆ハー)
たまたま通り掛かったわけない。
きっと探してくれていたんだろう。
「会長……」
「ん?」
「申し訳ありません…仕事、疎かにして……」
今日だけの話じゃない。
ここ1ヶ月、きっと迷惑を掛けてきた。
「そうだね」
「!」
はっきりそう言われるとさすがに堪える。
それだけ足を引っ張っていたのだろう。
だけど落ち込む私に会長が言ったのは予想外の言葉だった。
「自分の気持ちが誰に向いているのか…はっきりすれば仕事にも集中出来るのかな?」
「………自分の、気持ち?」
私の心に誰がいるのか。
好きだと言われて戸惑うばかりで、自分の気持ちなんて考えた事なかった。
「…浮かぶ人がいるかい?」
「……」
会長が柔らかく笑う。
私は小さくコクリと頷いた。
「そう、なら大丈夫だ」
「会長…私、」
「答えが心にあるのなら、しっかりとその答えと向き合うといい。この先まだまだ忙しくなるからね、頼りにしてるよ」
会長は私の頭にポンと手を置いてニコリと笑った。
その笑顔はまるで幼い子をあやすようなとても優しい笑顔。
(会長が、恋をする相手は一体どんな人なんだろう…)
次の瞬間にはいつもの『生徒会長』の顔に戻っていた。
「戻ろうか」
「はい」
その頃、西校舎に残された三成と隆景の間にはまだ緊張した空気が漂っていた。
「……私達も戻りましょうか」
隆景がそう切り出すも、三成は険しい表情を崩さなかった。
「キスを…したのか」
「………えぇ、しました。私はに自分を見て貰いたいので」
「お前は…!「三成先輩はどうなのですか?」
「……っ!」
隆景の言葉に三成は口を閉じる。
自分にとっては。
三成は拳を握り締めて隆景に背を向けた。
「俺は…見回りに戻るのだよ」
堂々と気持ちを晒け出せるほど自分は素直な人間じゃない。
「おかえり、随分油売ってたね」
「竹中先生…ごめんなさい……」
「ま…この後はきっちり働いてもらうからいーよ」
私は竹中先生に頭を下げ、パイプ椅子に座った。
ずっと握っていた小さな紙。
『心の中にいる人』
書かれていた言葉が、胸に響く。
私の心にいる人は。
「心の、中に…」
秋晴れの空に私の呟きは溶けて消えた。
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