第33章 無双学園生徒会執行部。『Summer vacation』
「夜は幾分涼しく感じるな…」
「……はい」
私も三成先輩も、繋いでいる手の事については触れずにいた。
何となく、その事に会話で触れてしまったら手が離れてしまうんじゃないかって思った。
昼間と同じ、触れ合っている手だけが熱い。
誰もいない、浜辺。
聞こえるのは波の音と私達の歩く足音だけだ。
「食事をとらなかったが…具合はもういいのか」
「……大丈夫です」
少し前にいる先輩が私を気遣ってゆっくりゆっくりと歩いてくれるその気持ちが嬉しかった。
「今回ばかりはお前の運に俺も感謝した」
「え…」
「心臓が…止まるかと思った」
「心配掛けてごめんなさい…」
「…確かめさせてくれ」
「え…?あっ…」
繋がれた手をそのまま引かれ三成先輩の腕の中に収まる。
潮風の匂いと先輩の匂いが混ざって私の鼻を掠める。頭がクラクラしてしまう。
耳元では先輩の鼓動が聞こえていた。
「…無事で良かった」
そう囁かれて心臓が跳ねた。
薄暗い中、至近距離で見えたブラウンの瞳。
その中には戸惑いを隠せていない私の顔が映っていた。
「…嫌なら、全力で突き飛ばせ」
「三成先ぱ………!」
重ねられた唇。
先輩の髪がサラリと私の頬を掠めた。
それほどに私達の距離は近い。
一度離れ、額と額を合わせながら見つめられる。
なんて……色っぽいのだろう。
先輩に見惚れている不意を突かれて二度目のキスが降りてきた。
「戻るか…しっかり体を休めろ」
「は、い…」
その後は何も話す事なく別荘へと戻った。
ねぇ、三成先輩。
どうして何も言ってくれないんですか。
どうして私達はキスしたんですか。
蚊の鳴くような小さな声で呟いても、その声は全て波の音に拐われてしまう。
こうして私の夏は燻ったまま終わりを告げた。
8月が終れば新学期が始まるーーー。
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