第30章 無双学園生徒会執行部。『June』(逆ハー)
「石田先輩、あの、」
「………」
先輩は明らかに取り乱している。
あの、石田三成が。
会長と何かあったのかな…?
生徒会室に資料のプリントをぶちまけて来ちゃったけど…。
「今朝、」
「え…?」
「今朝、お前は自分には実害がないからと言ったな」
突然話を始めた先輩に私は黙って頷いた。
夕日が窓から差し込んで先輩の茶色い髪を照らしている。
普段から綺麗なその髪は、一層美しさを増して見える気がしていた。
「お前の心は痛んでいないのか」
真っ直ぐに言われたその一言は、私も知らなかった心の引き金だったらしい。
「あれ…っ…私…?」
自分では止められない涙がポロポロと溢れ、床にシミを作った。
「違うんです、先輩…私泣くつもりなんて…っ」
「俺は目の前の事が真実だと思っている、何を言っても無駄なのだよ」
「っ、」
何が起きたのか、わからなかった。
視界が遮られ、心地よい温もりを感じる。
そして顔を擽る茶色の髪。
「せ、先輩…?」
「…自己犠牲を受け入れるな。運が良いからなんだ、お前は…傷付いているのだろう…っ」
私、石田先輩の腕の中にいるんだ。
そしてこの人は、私の奥に隠していた痛みを見つけて引きずり出した。
「…っ!ふ……っ」
その痛みは一度誰かに触れられたら最後。
溢れ出す涙は先輩のシャツを濡らす。
声を押し殺しながら石田先輩の胸で泣いた。
本当は、大丈夫じゃない。
階段の時も鞄の時も、嫌だったし怖かった。
「…俺には、ちゃんと言え。俺なら守ってやれる」
「石田先輩…」
先輩の言葉の一つ一つが心に染み込んで痛みを消していく。
至近距離で視線が交わる。
あ、これは。
「………」
「………」
夕日に照らされた影がゆっくりと重なろうとした、その時だった。
「さーん!三成先ぱーい!!呼んでる!会長が!」
「「!!?」」
突然聞こえた島津君の大声にピタリと動きが止まり、パッと腕が離れる。
「豊久!図書室で騒ぐな!……すまない、先に戻る」
「………は、い」
残された部屋で一人。
私、今…空気に流されてキス、しようとしてた…?
外は綺麗な夕焼け。
雨なんか、降らないじゃないか…。
折角持ってきた傘の出番はなさそうだ。
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