第15章 *俺が苦手で好きな君 feat.火神
「火神くん、体育館まで一緒に行きませんか?」
にこにこと嬉しそうに微笑みながら、遠野は俺に話しかける。
だが俺は、遠野の態度とは正反対に不機嫌そうにしていた。
「嫌でもそうするんだろ。」
「うーん…遠回りするのは変ですし、わざわざ時間をずらす意味もないです。嫌なら数歩後ろを歩くというのはどうでしょう?」
「ああもう、勝手にしろよ…。」
俺は遠野が苦手だ。
それは何か嫌な思い出があるから、などではなく、俺の苦手な犬に似てるから、という理不尽な理由だけどな。
席を立って廊下を歩くと、言った通り数歩後ろを歩く遠野。
好きにしろとは言ったものの…落ち着かない。
「おい、遠野。」
「なんでしょう?」
「んな中途半端なとこじゃなくて、隣歩けよ。」
ぶっきらぼうな物言いだったのに、遠野は笑みを浮かべた。
「ありがとうございます…っ!」
遠野が隣に来ると、何故か安堵してしまって。
苦手なのに、矛盾している自分の気持ちに、俺はため息をついた。
「わけわかんねぇ…。」
いや…本当は分かっている。
矛盾してないことも、自分の気持ちがなんなのかも。
俺は遠野が苦手だ、だけど嫌いではない。
本当は──
「火神くん?」
急に考え事を始めた俺に、遠野が首を傾げる。
こいつの様子を見ると、まだ気の無い振りをしてもいいかな、なんて思ってしまった。
今はまだ、距離が遠すぎる。
「なんでもねぇよ。ほら、行くぞ。」
少し乱暴に、遠野の手首を引っ張って、俺は少し足を早めた。
*俺が苦手で好きな君*
犬みたいなお前が苦手で、
でもはにかんだその笑顔が好きで、
俺はお前に、とことん弱いみたいだ。