第10章 *きみは春温度 feat.木吉
「ふあぁ…。」
春の暖かさに、ついうとうとしちゃう。
穏やかであったかいこの季節。
私は、実は冬よりも眠くなるんじゃないかって思ってる。
だって、すごく落ち着くじゃない?
「香奈、寝不足か?あんまり無理するなよ?」
そんな私を見て、鉄平が心配そうに言ってくれる。
ちょっとあくびしただけなのに、お人好しなんだから。
「へーき。春だから、眠くなっただけだよ。」
「夜じゃないのにか?」
「だから、今「春だから」って言ったでしょ!ぽかぽかしてて、眠くなるの。」
わざとかと思うほどの天然っぷり(でもきっと素なんだろうな)に、頬をむにゅっとつまむ。
男の子の肌だけあって、そんなに柔らかくはなかった。
つまりあんまり伸びなくて、面白くない。
鉄平なら伸びそうだと思ったんだけど、やっぱり無理か…。
あんまりやると、こっちのほっぺだけゆるゆるになりそうなので、手を離す。
と、後ろからぱたぱたと女子2人が駆けてきた。
美術部員のようで、様々な装飾品を抱えている。
ほとんどがピンク色なのは、桜が多いからだろう。
「もう入学式だねー…。早いなぁ。」
外をちらっと見ると、本物の桜も咲きたそうにしている。
入学式当日は、きっと満開になりそうだ。
新しい春が始まる予感。
少しドキドキしながら、そういえば、数年前まではバスケ部はなかったんだなぁ、ということを思い出す。
でも今は違う。
来年もその次も、どんどん新しい部員が入って来るんだ。
そしてその場を作ったのは、間違いなく今隣にいる…鉄平。
「鉄平。」
「ん?」
「2年間…お疲れさま。」
何がかは言わなかったけど、鉄平は察したみたい。
にこっと優しく微笑んで、その雰囲気が、桜の淡いピンクと重なった。
何故か落ち着いて、優しくて、何かが始まる季節の春。
ああそうだ、何かに…いや、誰かに似てると思ったら。
こうやって特徴を並べてみて、ようやく気がついたよ。
「鉄平は、春に似てるね。」
だってほら、繋いでるこの右手も──
春に似て、あったかいじゃない?
*きみは春温度*
春みたいな温もりのきみ。
私が春を好きなのも、
きっと、きみに似てるせいなんだ。