第9章 *小さな告白 feat.伊月
2年生になってから、クラスのある男子に必ず挨拶をされている。
今日も、あたしが教室で本を読んでると、部活の朝練を終えたあの人が、やっぱりあたしに話しかけてきた。
「遠野さん、おはよう。」
「…お、おはようございます…。」
あたしは人見知りで、まだクラス替えで出会ったばかりのこの人とは、あまり上手く話せない。
でも、彼…伊月くんは、必ずあたしにおはようって言うのです。
それも何でか、幸せそうに、それでいてはにかみながら。
*
最初は緊張していたものの、段々と慣れてきたある日。
あたしは、伊月くんに訊いてみようと思った。
「遠野さん。」
今日も伊月くんは、声のトーンを少し上げて声をかけてくれる。
「おはよう。」
「おはようございます。…あの、伊月くん。」
──何であなたは、あたしに話しかけようと思ったのですか?
ずっと疑問に思ってたこと。
それを口に出すだけで、何故か不安や期待で、胸がいっぱいになった。
周りは相変わらずなのに、あたし達の空気だけが、少し変わる。
でもそれは、重いものじゃなくって。
「遠野さんが…気になってるから、かな。」
何かの始まりを告げるような、彼の優しい言葉が、あたしの心を小さく揺らした。
*小さな告白*
まだ成長途中の、この気持ち。
でも、この気持ちが膨らんでいったら。
きっと、「好き」に変わるんです。