第8章 【沈丁花讃歌】
「どうして、ここに……?」
未だ小刻みに震える紗英は
鬼灯の腕の中で問うた。
彼女の背を優しく
摩っていた鬼灯が
ぽつりと言葉を紡ぐ。
「貴女に……会いに」
鬼灯の言葉はつまり
紗英を買いに来た、
という意味だ。
彼の財布には、
白澤が一日に妓楼で遊ぶ金を
軽く凌ぐ額が用意されている。
「……でも、私は」
「分かっています」
「………」
「言ったでしょう。それでも、
私は貴女が……欲しいんです」
しかし、まさか
こんな獄卒(アホ)が
紛れ込んでいるとは。
鬼灯はそう言葉を足して
深い深い溜息をついた。