第8章 【沈丁花讃歌】
ちんとんしゃん
てんつく、てん
四方八方から聞こえる
花街らしいBGM。
数十年前までは太鼓や笛など
実際の演奏が為されていたが、
現在ではほぼほぼCDである。
「ささ、どうぞ上がってくんな」
花割烹狐御前のポン引き狐が
人懐こい笑みで鳴いてみせた。
「どの子がええかいな?
ウチは上玉が揃っとるよ」
店先に貼られた遊女達の写真。
オーナー妲己は勿論、
確かに美女だらけだ。
生まれて初めて
妓楼に足を運んだ若い男鬼は
おどおどと目玉を左右に振る。
「この……人に、します」
彼が指差したのは
他の誰でもなく
紗英の写真であった。