第13章 【花街ドランカー】
「ちょいと新入りちゃん」
ここは地獄の女郎部屋。
漆塗りの盆を胸に抱えた女は、
ポン引き狐の声に
その小耳を傾けた。
「あの御人はやめときな」
どうして?
女は問う。
プカリと煙管を吹かして
狐は難しそうな顔をした。
「そりゃお前さんが傷付くからさ」
狐の話は尚も続く。
白澤の兄さんはな
女に惚れ込むのも入れ上げるのも
凄まじく早い、そりゃもう速攻だ。
しかし……何が兄さんを
そうさせるのか知らんが
「非常に浮ついとる」
その姿はまるで椀子蕎麦だと、
狐は皮肉っぽく言って笑った。
「次から次へ
来たもの拒まず
かっ喰らう」
悪いことは言わん、
やめておきんさい。
言いながら去っていく化け狐。
檎が残した白煙を、紗英は
いつまでも見つめていた。