第10章 少女の記憶「白」
「えっと……地獄に
団栗は生えてないよ」
「そうなんだ」
少女は悲しそうだった。
顔は微動だにしていなかったけど、
少なくとも僕にはそう見えた。
子供にしては美しい、
(実に将来が楽しみだ)
口元を薄く開いて少女は言う。
「トト◯大王に喜んで
もらおうと思ったのに」
「(ト◯ロ大王……?)」
自分でもどうしてか
分からないけれど、
その俯き加減な幼顔が
なんとなく可愛く思えて──
「じゃあ取りに行こうか」
「え?」
「団栗。僕のお家に来れば
たくさんストックがあるよ」
僕は少女の手を
そっと、握った。
言っておくけど誓って
下心はないんだからね。
「おじさんって、
どんぐり屋さんなの?」
「……不同(違うよ)」
【十ノ章】
少女の記憶「白」___終