第3章 3.×××
「お、おい……?」
彼が焦ったように私に声を掛ける、聞こえてはいるが、返事をしようにも、声にならない。
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(……参ったな)
ちょっとからかってやるだけのつもりだったんだが、まさかこんなことになるとは思わなかった。普通に男と話をしていた以上、特に問題ないと思っていた。
が、どうしようか、想像以上に彼女の闇は深かったようだ。
「……彩芽」
ともかく、上からどいてやる。身動きも取れないままじゃ、落ち着くにも落ち着けないだろう。
それから、何とか抱き起こしてやって、座らせた。
「……」
「やだ……もう、許してよお……」
「……はぁ」
いくら向こうが逆ギレしたからとはいえ、こうなった原因は俺にある。だから、こればかりは自分で収めなくてはいけない。
「落ち着け。本当に何かするわけじゃない」
「……クロハ……」
震える彩芽の体を抱きしめる。背を撫で、震えが止まるまで待つ。
……。
例えば自分が《欺く》だったなら、ここで何か気の利いたものに姿を変えて彼女を落ち着かせられただろう。
《盗む》だったなら、どうするべきか、彼女の思考を盗み見て確認できただろう。
にもかかわらず、自分には何もできない。《冴える》蛇は、願いありきでしか力を発揮できないのだから。
その自分の情けなさに、ふと口から言葉が零れる。
「ごめんな、彩芽」
それは、自分が生まれてから、
ほとんど始めて人にした、懺悔だった。