第28章 虚偽
「八瀬姫?八瀬姫って…だって、八瀬姫は千姫で…」
「先ほども言っただろう。お前は本来別世界の者。ここではどう足掻こうと忌むべき存在なのだと。
私は本来お前や夜真木があるべき場所。こことは別の日ノ本に残された鬼を統括する者。」
八瀬姫、それ以外に少女を表す名はない。
「話を始めよう。」
「今更あんたと話す事なんてねえよ!」
少女の容姿が見えていないかのように、颯太は戸惑いを見せなかった。
その一線のためだけに姿を変え、握りしめた刀に月明かりを反射させた。
「お前も聞くべきだと思うぞ?」
しかしその刀に鮮血がこびりつく事はなかった。
八瀬姫は体勢を変えず、瞬く間に久摘葉の背後へと回っていた。
しかしそれ以上何もする様子はない。藤堂と久摘葉が振り向き、全員が同じ方向から八瀬姫を見据える様になる。
藤堂は再び久摘葉を自分の背に隠すと、颯太と共に敵意を向けた。
「久摘葉から離れろ。」
「思い出話なら俺がする。あんたの言葉なんか誰が信じるか。」
「成る程。お前自身から強攻策に出ろ、などと申すとは意外だな。」
颯太の動きはそこで止まった。八瀬姫から視線を外して舌打ちを零す。ばつが悪そうに刀を収めると、再び八瀬姫を睨む。
「それで良い。…藤堂平助、信じるも信じないもお前の勝手にするといい。ただし、懐柔策で交渉を申し出ている相手に乗らないのは不利益だと思うがな。」
藤堂もまた、刀を収めた。
しかし、八瀬姫の言葉がきっかけではない。八瀬姫をよく知る颯太の仕草に感化された様な、そんな気がしていた。
…そう背が語っていた。
「では、始めよう。
______むかし昔の、遠き過去の話。」