第18章 懇願
桜時が倒れると同時に藤堂は目を覚ました。
周りの状況を見て、曖昧に聞こえていた事の経緯をなんとか捉えられたようだ。
すぐ隣で意識を手放した桜時は頰に涙を流しながら。
「平助、無事なのか。」
「ああ。オレは、な。」
半信半疑で藤堂に問う原田だったが、苦しそうに答える藤堂を見て、それ以上は何も言えないようだった。
「お前のせいだ。藤堂平助。お前のせいで、お前が弱いせいで久摘葉は…」
涙を流しながら静かに掴みかかる夜真木。
夜真木自身も、桜時を護ることに必死だったのだから、当たり前なのかもしれないが。
それでもいつもより覇気に欠けた、弱々しい姿である事は誰もが疑問に思った事だろう。
「天霧さん、不知火さん。」
民家の屋根から事の行く末を見ていた彼らに向け、夜真木は言った。
「風間さんに伝えてくれ。今まで世話になったって。」
「あ?んな面倒なこと、誰が引き受けるか。」
「わかりました。君はこれからどうするのです?」
「俺は、もう帰るだろうからさ。」
背を向けてそういうと、彼らはそのまま消えてしまった。
「頼む。屯所までこいつを連れて行く。案内してくれねえか?」
今度は原田と永倉に頭を下げる夜真木。
最初こそ警戒していたが、千姫と屯所を訪れた時にも、今も、夜真木の良さはわかっているのだ。誰より桜時を心配しているかも。
「わかった。付いて来い。」
原田はそれを承諾すると、先行して屯所への帰宅路へ歩いて行った。
そんな颯太の姿を見ながら藤堂は何を思ったのだろうか。
一番彼女の事を護ろうと必死だった夜真木を見て、自分の弱さを痛感したのだろうか。
「千月。」
その名を静かに呼んで、彼女を抱きかかえようと手を伸ばす。
しかしその手は自分に邪魔される。
「俺が運ぶ。お前みたいなやつに久摘葉は護れねぇ。」
長い夜は明けた。複雑に絡み合った人と鬼の交錯は、さらによじれてしまったが。