第3章 人気者
結局八尋に引っ張られその日は授業を受けることになった。
まともに出席するのなんて何日ぶりだろう。
入学式からだいぶ経つが、いまだに俺はクラスメイトの顔と名前をほとんど覚えていない。
教師の声を聞きながらぼんやりしていると、不意に隣の席から声をかけられた。
「あの………………」
「………………」
目線だけでチラリと見ると、気弱そうな女子がビクリと肩を震わせる。
ああ、そうだ。
これが普通の反応だ。
椎名があまりに無防備に俺に接してくるものだから、すっかり忘れていた。
「これ…………プリント…………」
前から配られてきたプリントを、おずおずと差し出してくる女子生徒。
正直授業を受ける気がない俺としては、あっても邪魔なだけのシロモノだ。
だが目の前の女子生徒は、受け取らなければ今にも泣き出しそうな顔をしている。
…………めんどくせぇな。
仕方なく差し出されたプリントに手を伸ばすと、女子生徒はあからさまにホッと息をついた。
恐いなら最初から関わらなければいいのに…………
俺は受け取ったプリントをぐしゃぐしゃと丸めると、机の中に突っ込む。
「あっ…………」
隣からそんな声が聞こえ、俺は再び女子生徒に視線を戻した。
女子生徒はまたもやビクリと肩を震わせ、みるみるうちに目に涙がたまっていく。
─────おい、なぜ泣き出した。
女子生徒の後ろの席に座っていた生徒がそれに気づき、「大丈夫?」と声をかける。
その声にまた別の生徒が反応し、気づけばクラス中に注目されていた。
「おい、何があったんだ」
少し年のいった教師が、クラス内の異変に気づきこちらに寄ってくる。
───これだから授業に出るのは嫌なんだ。
面倒なことが増え、自然と眉間に皺がよる。
「燈斗くん!」
ガタンと席を立ち上がったのは八尋だった。
「ちょっとこっち来て!」
そう言って授業中なのも気にせず八尋は俺をグイグイと引っ張る。
背後で教師が引き留める声がしたが、結局俺は八尋に教室から連れ出された。