第2章 【孤爪研磨】特権2
ピロンっ
ケータイ音が鳴り、ふと視線を落とす。
彼女からのメール。
「寒っ…」
すぐに上着を来て、いつもの場所に走り出す。
「あっ、けーんま!来てくれたの?」
「…暇だったから」
彼女の隣に腰をかけた。
ここに1人で来ると言うことは、大体予想がつく。
「ねっ!いつものしてもいい?」
そう言うと、おれの返事も聞かないまま、くるっと背中を向けて来た。
おれは何も返事を返さず、彼女の背中に自分の背中をくっ付ける。
ふふ。っと嬉しそうに笑う彼女。
そして自分の頭の上に手のひらを載せ、ゆっくりスライドさせる。
「いつの間にか、研磨にも身長抜かされちゃったな」
ため息交じりにおれの後頭部にトントンと手を動かす。
「…クロとケンカでもしたの?」
おれはそんな彼女にそう尋ねると、彼女はうっ…と身体を固まらせた。
「だってさー」
しばらくの沈黙を破って彼女が口を開いた。
「研磨はさ、…その………見たりするの?」
「何を?」
「だから…その…あれ」
おれがふぅーとため息をつくと同時に、彼女の言葉に驚き、むせてしまった。
「えっ…!?はっ!?」
「だーかーらー!その…えっちなDVDだよ…研磨も見たりするの??」
少し涙目になりながら触れていた背中を自ら外し、おれの顔を覗き込む彼女。
夜でよかった。
おれの顔の赤さがバレずに済んだ。
「ねぇ…研磨は見たりしないよね?」
「興味ない…」
おれがそう言うと、さっきまで泣き出しそうだった彼女の顔がパーっと明るくなった。
「だよね!…こないだクロの部屋で見つけちゃって…そしたら、男子高校生は必ず見てるって言ってきてさ。
クロの変態!だーいっ嫌い!研磨もそう思うでしょ?」
こんなにも強く同意を求められたら、しないわけにはいかない。夜風が吹き、ブルっと身震いさせる彼女に上着を貸してあげた。
断ろうとする彼女を残し、おれは歩き始めた。
「おれは男だから大丈夫。帰るよ…」
数メートル歩いた所で、後ろから彼女の足音が聞こえてくる。
「ねぇ、研磨。」
「…なに?」
「研磨が大人になってる」
先に大人になったのはそっちなのに。
落ち込んだ時の彼女の背中はおれの背中が特等席。
たとえ、クロの相談だったとしても、それがおれに与えられた特権だから。
The End