第10章 【月島 明光】弟はずるい
“お兄ちゃんなんだから、蛍に譲ってあげなさい”
ずっと一人っ子のように育ってきた俺に弟が出来た。
すごく可愛かった。
いつも俺のマネをして、バレーだってなんだって、
7つも違えば、弟に負けることなんてありえない。
それでも蛍はいつも俺をすごいと褒めて、慕ってくれていた。
けど、昔大事にしていたフィギュアを蛍が欲しいと言い出して、
絶対に嫌だと言った。
絶対に渡したくなかった。お気に入りのフィギュアだったから。
『兄ちゃんなんだから、蛍に譲ってあげなさい』
親に言われた。
泣く泣く、俺はそのフィギュアを蛍に譲ったんだ。
「あぁーあ。本当、弟っていいよなー」
「どうしたんだよ、明光」
「大事にしてたものをまた弟に譲っちゃったよ」
「…?ゲームとか?」
「あはは。…もっと大事なものだよ」
お兄ちゃんじゃなかったら、ひろかを俺の隣に置いておけたのかな。
いや、違うか。
お兄ちゃんだから身を引いた。
と自分に言い訳出来るから、俺は“お兄ちゃん”で本当に良かった。
「はぁー、早く彼女作ろう!」
The End