第75章 【東峰 旭】私が死んだら・・・
「ねぇ、旭~?」
私はソファに座っている彼の背後から抱きついた。
「ん?どうした?」
彼は読んでいたバレー雑誌を一度閉じて私の方を向いた。
「旭、好きだよ?」
私がそう言うと、彼はちょっと驚いた顔で笑った。
「なに?どうしたの、急に?」
そう言って、私の頭を撫でる右手はとても大きくて優しい。
「ねぇ、旭。もし私が死んだらさ・・・」
「えっ!?死ぬ?…どこか悪いの!?」
もしもの話。と言うと、なんだよ。と安心する顔はとても可愛い。
「もしも、私が死んだら、旭は他の人と付き合う?」
どうしようもない質問。
それでも、どうしても聞きたくなったんだ。
「付き合わないよ。死ぬまで独身だよ」
そう言って、また私の頭を撫でる。
「嘘つき。だって私達まだ10代だよ?数年は悲しくてダメかもしれないけど、きっと旭は他の素敵な人と出会って結婚して、可愛い子供たちと暮らすんだよ」
ぎゅっと、彼の肩から胸に回した腕に力を入れた。
「ひろか…?」
彼はそっと私の腕を外して、私の方へ身体ごと振り向いた。
「俺は、もうひろか以上の人には出会えない。だから、ひろかが死んだら、俺も一緒に天国に行くから」
そう言って彼は私のおでこにキスをした。
「じゃぁ、死ぬ間際に旭にもう一度聞くからね?旭が嘘つくときって必ず左上見るんだから!!ちゃんと見届けた後で死ぬからね!!」
「こっ、怖いよ!・・・って俺、左上見る癖あるの!?」
マジでか…と自分の癖を見破られていた事にショックを隠し切れないでいた彼は、ハッと思い立ったように勢いよく私の肩を掴んだ。
「けど、もし俺が先に死んだら、ひろかは素敵な人を見つけて結婚して幸せになって?」
「えっ?」
「俺、ひろかが泣きながら俺を想って生きていくよりも、新しい人生を幸せに生きてくれる方が嬉しい。お盆の時だけ、俺に会いに来て?」
そう言って彼は私を抱きしめた。
バカ・・・。
私が本当に死ぬ時、同じ質問をするからね?
“私が死んだら、旭は他の人と付き合う?”
ううん。と答える旭が、左上を見るのを見届けてから死んでいくから。
絶対に左上・・見てよね?
そうじゃなきゃ、安心して天国にいけないからさ。
TheEnd