第60章 【烏野3年トリオ】みんなはパティシエ
「佐藤~!」
「ん?」
振り向くと澤村、菅原、東峰が立っていた。
部活後で他の部員達は全員帰っていて、私は急かすように何?と言うと、菅原が後ろから小さな紙袋を出してきた。
「俺らからの、いつもの感謝の気持ち!」
私が紙袋を受け取り中を覗くと、そこには形が崩れたクッキーが入っていた。
「何、これ」
私は笑いながら、そのクッキーを手に取った。
「実はちょっとしょっぱいんだよな」
澤村がハハハと申し訳なさそうに笑う。
「だから、ちゃんと計らなきゃダメだって言ったべよ~」
「そんな事言ったって、計りがどこにあるか分かんなかったんだよ」
東峰が肩を落とし、菅原が開き直っていた。
「・・・いただきます」
私はその形の崩れたクッキーを口に含んだ。
「わぁ!佐藤、無理するな!」
澤村が私の手首を掴み、菅原はどう?どう?と顔を覗き込み、東峰はすでに目を塞いでいた。
「…無塩バターにしなかったでしょ?」
「「「無塩バター?」」」
3人の頭の上にはハテナマーク浮かんでいた。
「はぁ…やっぱ佐藤みたいに作るのって難しいんだな」
「いっつも当たり前のように佐藤からの差し入れクッキー食べてたけど、結構手間かかるんだな」
「本当だよな。後片付けも大変だった…」
私はもう一度クッキーを見た。
歪んだ円形のクッキー。
堅くて、しょっぱいクッキー。
そのクッキーを見ていると、三人が私のために試行錯誤しながらクッキーを作る姿が浮かんできて、私の口元は緩んでしまう。
「このクッキー形も変だし、堅いし、しょっぱい…」
「だっ、だよな」
3人はため息をついて俯いた。
「でも、今まで食べたクッキーの中で一番好き!」
私がそう言うと3人はぱぁっと顔を明るくさせた。
「次こそは上手に作れるように頑張るから!」
「いや、俺は旭のクッキーより、佐藤のクッキーが食べたい」
「俺も~」
「えっ!?ちょっ!俺も!俺も佐藤のクッキーがいい!」
どんなに美味しくなくても、キレイじゃなくても、このクッキーを超える物には二度と出会えないだろうな。
私は3人が楽しそうに話している後姿を見る。
幸せだ。私は幸せ者だ。
「佐藤!何してんだよ~早く来いよ!」
「うんっ!」
TheEnd