第59章 【研磨・菅原・国見】オムニバス~11月11日~
「菅原~、ポッキー食べる?」
「おぉ!食べる食べる~」
私はバカだ。
ずっと好きだった菅原くんに話しかけるきっかけを作るため『ポッキーの日』なんて言う、企業側の戦略に乗っかっていた。
いつも菅原くんはいろんな子からお菓子をもらっていたから。
けど、普段からもらっているなら、当然『ポッキーの日』にももらうわけで。
今現在、菅原くんにポッキーをあげているのは私ではない。
「バカみたい」
私はカバンの奥底にポッキーをしまった。
「バレンタインじゃあるまいし…」
自分にそう言い聞かせるけど、1年の時のバレンタインにチョコを渡せなかった私にとって、この言葉は何の意味も示さない。
「ひろか、また明日ね」
友人達と別れ、帰宅部の私は一人教室を出る。
校庭は運動部の声が響き渡り、私は少し恨めしそうに聞き入っていた。
「スガ~、急ぐぞっ!」
声がする方を見ると、そこには菅原くんと澤村くんがいた。
「すっ菅原くんっ!!」
私の声に二人が振り向いたが、私はその後言葉が出なくて俯いてしまった。
「ごめん、大地!先に行ってて!」
そう言って菅原くんは私の元へ来て、どーした?って優しく声をかけてくれた。
「あの・・・」
「ん?」
「ぽっ…ポッキー食べる!?」
えっ!?と菅原くんは目を見開いた。
「あっ、ごめん!部活前に…。じゃっ、じゃぁ!」
私は菅原くんの横を通り過ぎ、校門へ向かう。
何してんだろう。私は自分のした行動に後悔しかしなかった。
「佐藤さん!」
「えっ?」
「食べたいっ!だから、俺の机に入れておいてくれると嬉しい!!」」
ニカって笑って菅原くんは部活へ行った。
はぁはぁはぁ…
私は急いで教室に向かった。
こんなに走ったのはいつぶりだろう。
急ぐ必要はない。
だって部活が終わるのはもっとずっと後。
なのに、どうして私はこんなにも急いでいるんだろう。
菅原くんの席。
私はゆっくり椅子を引いて、ポッキーの箱を押し込む。
「あっ・・・」
私はカバンからペンと取り出して、ポッキーの箱にあるメッセージ欄に文字を書く。
“菅原くんが大好きです”
私は自分の気持ちを書きとめた。
キャップが開いていない、そのペンで。
TheEnd