第59章 【研磨・菅原・国見】オムニバス~11月11日~
授業が終わり、おれはすぐにカバンからゲーム機を出す。
電源をONにして、待機時間を攻略方法を練りながら待つ。
「けーんまっ!」
すると、聞きなれた声がして
おれはふと顔を上げる。
「じゃーん!今日はポッキーの日だよ!」
彼女が赤い箱を見せびらかす。おれの席の前に座り、鼻歌を歌いながらその箱を開けた。
「ひろか…ポッキーの日じゃなくても食べてるじゃん」
おれの言葉にハッとして、えっとーと何かを考えている。その頃にはゲームも立ち上がっていて、おれはスタートボタンを押す。
「ポッキーの日は罪悪感無しにポッキーを食べてもいい日なのです!」
訳の分からないことを言いながら、包み紙から出したポッキーを掲げる。
「研磨、はい、あ~ん」
彼女がおれの口元にポッキーを持ってくる。
「いらない」
「えぇー何で?美味しいよ?」
ぐりぐりとおれが口を開けるまで引かないつもりだ。
パクっ
ポリポリポリポリ
おれの噛むタイミングに合わせて彼女はポッキーを押し込む。
「ね?美味しいでしょ?」
「うん」
ゲームをしながら、おれはそう答えた。
彼女はとっても嬉しそうに、今度は自分の口にポッキーを押し込む。
ポリポリポリポリ
その音が音量をOFFにしていたゲーム機から聞こえてくるかのように、華麗なリズムを奏でていた。
「はい、もう一本」
そして、彼女はまたおれの口元にポッキーを持ってくる。
おれは黙ってそれを口に含む。その繰り返し。
「研磨は可愛いな~」
彼女がボソっと言う。
「…なに、急に」
「えぇー、思ったから言ってみた」
ふふふと笑って、残りのポッキーの本数を数え、もう一袋開けてしまおうかと頭を悩ませている。
「おぉーーーい、研磨っ!!」
廊下からクロの声が聞こえた。
おれが顔を上げる頃には2年の教室にズカズカ入ってくるクロがいる。
「今日の部活…おっ、ポッキーじゃん。ちょーだい?」
「えっ、あっ…どうぞ」
彼女が袋を差し出す。
「んっ!」
クロは口を開けて、顎を突き出した。
その意味を察した彼女が自らの手でクロの口にポッキーを押し込んだ。
「で?何、クロ」
その後クロは連絡事項を伝え去って行った。
「黒尾先輩って、何であんなにカッコイイんだろう」
彼女は言う。
「知らない」
おれは言う。
TheEnd