第40章 【及川 徹】チョコなんてあげないよ
2月。
私の嫌いなイベントが近づく。
バレンタインデー
お菓子業界の戦略にまんまと引っかかった女達が、思いを寄せる男性にチョコを贈る。
1月終わり頃から教室でも、お菓子本を手にする女子が増えてくる。
「ひろかは誰かにチョコあげないのー?」
何がそんなに楽しいのか。
私は彼女達に呆れながらも、作り笑顔で答える。
「みんなは誰にあげるの?」
話題を自分から相手にシフトする。
みんなは声を揃えて答えるんだ。
「「及川くん!!」」
去年もすっごく喜んでくれたもんねー!って楽しそうに話していた。
「あれー?今俺のこと呼んだー?」
すると、私たちの前に本人が現れた。
「なになにー?なんの話ー?」
楽しそうに女子の輪に入って来れる度胸。
本当に尊敬する。
「今年のバレンタインの話!今年も及川くんのために頑張って作るからね!」
「本当に?うっれしー!」
及川くんがそう言うと、みんなキャーって騒いでいた。
「ひろかちゃんはチョコ作らないの?」
一人だけ何も反応しない私に及川くんはそう尋ねた。
「チョコはあげないよ」
「へぇー!好きな奴とかいないの?」
「いるよ」
私は何か文句ある?と言う表情で及川くんを見上げた。
「そうなんだー!どんな人なの?」
私は及川くんから視線をそらして口を開いた。
「誠実で、真面目で、人に見えない所で頑張るタイプの人」
「…お前とは真逆のタイプだな!」
声がする方を見ると、そこには岩泉くんが立っていた。
「岩ちゃん!なんで?なんで俺と真逆なのさ!」
「ナンパで、チャラチャラしてて、外面がいい人。だろ、お前の場合」
「ひっどいな!」
そんなやり取りを私は黙ってみていた。
そのあと、いいから帰るぞ。と岩泉くんは及川くんを連れて行った。
バレンタインか。
高校生活最後のバレンタイン。
今年こそ、彼に想いを伝えようか。
珍しく私は頭を悩ませた。