第4章 【岩泉一】空回りの恋
「やばい!岩ちゃん!ひろか!
最終バス来ちゃうー!」
着替えを終え、バス停まで向かう。
俺たちの数メートル先を走っている及川を見て、クスクスとひろかは笑っていた。
「ひろかは及川の事が好きなんだとばかり…」
「私は昔からはじめちゃん一筋です!」
なーんて。と照れ笑いするひろかがいつになく愛おしく感じた。
「はじめちゃんさ、私が徹ちゃんのファンの子に絡まれた時、
付き合うフリしようかって言ったじゃない?」
「あ…あぁ…。絶対嫌って言われてショックだったんだ…ぞ…」
ふと、ひろかの顔を見ると、
ぶすーっと頬を膨らませていた。
「ショックはこっちのセリフだよ!
付き合うフリだからな!って強調されるし…」
ふんっ!とそっぽを向かれる。
こういう時、どう言えばいいのか。
及川ならうまく乗り切れるのだろう。
「…好きって言ってくれたら許す!」
いきなり、俺の顔を覗き込み、
イタズラな笑顔を向けるひろか。
「はっ?…そんな恥ずかしいこと言えるかよ!」
「はじめちゃんのケチ!徹ちゃんの所に行ってやる!」
俺はとっさに、走り出したひろかを引き戻した。
「……きだ」
「えっ?」
「…好きだ、ひろか
だから、ぜってぇー及川のとこに行くな」
「うん」
俺たちは及川に見えない様に
そっと手を繋いだ。
タイミングを図ったかの様に
前を歩いていた及川が振り返った。
「ひろかー!岩ちゃんは狼だから気をつけなよー!」
「及川てめぇー!」
ケラケラ笑う及川を今すぐ殴り飛ばしたいが、
片手にはひろかの手が繋がれている。
ひろかは俺の顔を見上げて不思議そうに言った。
「はじめちゃん…狼なの??」
「…ばっ!何言って…!!」
俺は空いた片手で顔を隠した。
「はじめちゃんなら、狼でも熊でもウサギでも何でもいいけどね…?」
無邪気に笑って、徹ちゃん、待ってー!と走り出すひろか。
一気に力が抜けて、その場にしゃがみこんだ。
「あいつ、意味分かってんのかよ…」
「はじめちゃーん!はやくー!」
とりあえず今はひろかの笑顔さえ見ていれればそれでいい。
The End