第18章 【月島 蛍】主導権
「蛍~、お茶でも入れる?」
夕食後、彼女はキッチンから僕にそう呼びかける。
「・・・いい、自分で入れる」
僕はそう言って、彼女の元に行った。
ぎゅっ
エプロン姿の彼女を後ろから抱きしめる。
「どうしたの?珍しいね、蛍が甘えてくるなんて…」
彼女は動揺なんてせずに、
僕が抱きしめても片づけを続行する。
「なぁーんかあった?」
「べつに…」
僕がそう答えると、ふーん。とまた無言になる。
「ねぇ、彼氏が抱きしめてるのに無視ですか」
「無視はしてないよ~。ちょっと邪魔だけど」
彼女はいつもこんな感じだ。
変にベタベタしたりしないし、
僕の中にずかずかと土足で踏み込んできたりしない。
その距離感が僕にはすごく居心地が良かった。
こういう時、大人の女性だと感じる。
彼女との出会いは兄貴のバレーチーム。
僕が練習に参加した時に、マネージャーとして
彼女はそこにいたのだ。
近くの大学に通う女子大生。
付き合ったきっかけも彼女からだった。
「蛍くんさ…私のこと好きでしょ?」
「・・・っ!」
「付き合おっか」
僕はどんどん彼女にはまっていった。
「よし、終わり」
やっと彼女は片づけを終わらせて、
僕の方を振り返ってくれた。
「食後のショートケーキ、食べますか!」
そう言って、僕の腕からスルッと抜けて
冷蔵庫を開ける。
「こんな時間に食べたら太るよ?」
「太ってから考えます~」
僕の嫌味だって通用しない。
彼女はケーキと紅茶を出して、
早く食べようと急かしてくる。
大人かと思ったら、時々子供っぽくもなる。
本当、意味不明。
普段から、僕の行動や言動にもビクともしない。
大人だなって思うけど、時々それが気に食わない…。
「ひろか、もうベッド行くよ」
「野獣くんが一匹いるからな~」
彼女はまた僕をたぶらかす。
そんな彼女を強引にベッドへ連れて行く。
この時だけは主導権は僕だから。
彼女をベッドに寝かせ、
僕は彼女の動きを封じて、深くキスをする。
吐息まじりの彼女の声が可愛くて、
ついつい苛めたくなってしまう。
唇を離し、僕を見つめる彼女にどうしたの?と
意地悪を言った。
「蛍・・・好きだよ」
「・・・っ///」
今の主導権は僕だと思っていたけど。
やっぱり、どんな時も主導権は彼女のものだ。
TheEnd