第1章 帰る場所は
だが投げかけられた言葉に、麗は違和感を覚えた。何故なら、それはここ数日の間、麗が欲していた言葉だからである。しかし銀時からその言葉を聞く事はありえないはずなのだ。何故なら、その言葉を聞く為には麗の心の不安を、彼に打ち明けなければならないからである。そんな事、今まで一度もした事はない。彼以外の人間にもないと言うのに。あるとすれば、それは二日前の猫にだけだ。しかし、これではまるで、銀時が今まで麗が抱えていた不安を知っているような素振りではないか。
麗は困惑したまま、銀時の言葉に耳を傾けた。
「俺ァ確かに、一度お前から逃げた腰抜けだけどよォ。今度こそ、絶対に逃げねぇ。約束する。お前の所に、必ず俺は戻ってくっから。怖がらずに待っていてくれ、これからも側に居てくれ。だから、」
言葉を区切り、銀時はそっと麗の左手を取る。その手を銀時自身の顔に近づかせれば、彼はそっと薬指に口づけを落とした。その流れを見つめていた麗の心臓は一層高鳴る。銀時の仕草が、二日前に触れた白猫にあまりにも似ていたからだ。口づけを落とされた指は、まさしくあの猫に甘噛みされた指である。
猫。そうだ、猫だ。けれど、そんな事があるのだろうか。麗は半信半疑だった。見た目は確かに似ていた。だからと言って、銀時があの猫だとでも言うのだろうか…? 目撃情報が皆無だったのも、彼が人間の姿をしていなかったから…? 様々な疑問が頭の中を過る。だが銀時の次の言葉で、その真偽は瞬時にどうでも良くなった。