第1章 温泉の街で出会った少女
「あー、もう! おばあちゃんったら……私まだ、お客様の対応があるのに……」
1人の少女が穏やかな温泉街をものスゴい勢いで走っている。のんびりとした空間には似つかわしくない。
「早くしないと……」
走っている少女ーー瀬戸内香織は温泉街で、ホテルを経営している祖母の手伝いをしている。
今は、いつも仕入れているはずのお客様用のお茶菓子がなくなってしまい、同じクラスの文香の兄が経営している茶菓子屋さん『茶の間』へと買いに行く途中だ。本当は仕入れの管理も香織がしていたのだが、手違いで買い足されていなかった。完全に自分のミスだ。
「おばあちゃんに怒られるー!」
在庫を切らした時点で、祖母からのお説教は確定しているのだが、これ以上怒られないためにも香織は息を切らしながら、一生懸命『茶の間』に向かって走った。
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