第10章 痛くても僕がいるよ
6月ってこんなに暑かったっけ。
あーあ、早く梅雨にでもなればいいのに。
いい天気の6月。体育祭の午後。
私は体育館裏に逃げ込む。
ここは陽が当たらなくて涼しい。
誰もいない。ラッキー。
私は適当な場所に座る。
「先客がいた」
同じ目的でやってきただろう真司が、私を見つけて悪戯っぽい顔で笑う。
私もにっこり笑い返す。
彼は私の隣に座る。
私たちはチュッとキスする。
「もうすぐクラス対抗リレーかな?」
私は彼に尋ねる。
「そうだね。応援に行かなくていいの?」
「別に、わたしが応援したからって勝つわけでもないし」
「だね」
私たちは笑う。
「まあ、わたしが出たなら勝ったかもしれないけど…ふふっ。誰も推薦してくれなかったの。わたしが足早いってこと、誰も知らないんだ。
うーん、もしかしたら、わたしのこと自体知らないかもね」
「同じ。僕も足が早いのに、クラスの人は誰もそのことを知らない」
「ぷっ。早くないでしょ? 真司」
「みなみも知らないの? 早いよ。
よし、競争。あっちの壁まで。よーいドン!」
言い終わらないうちに立ち上がり、彼は走り出す。
「ちょっと! フライングー、ずるいー!」
私は笑いながら、彼を追いかける。
…
私には真司がいる。
世界中の人、誰も私のことを知らなくたって、
真司がいれば、私は生きていける。