第2章 一山いくらの林檎 後
牛尾がテーブルの上から床に転がるあたしを見下ろす。
「そんなところで寝ると風邪引くよ?」
あ、もう泊まらせる気でいたのね。それとも泊まらせる前提でいたのかしら。
「馬鹿は風邪を引かないのー。」
泊まる事は分かっていたとは言え改めて自覚させられると恥ずかしくて、急に牛尾の事を意識しちゃって、くすぐったくなったあたしは布団を頭まで被って顔を隠した。
「固い床で寝たら、起きた時に体の節々が痛くなってしまう。」
「クッションあるし、床で寝るの慣れてるもーん。」
口答えする面倒な酔っ払いに、牛尾は小さくため息をついた。
「仕方ないなあ。」
牛尾がまた立ち上がったのが衣擦れで分かった。
何だろう?客用の敷き布団でも出してくれるのかな?
と思ったら
「よいしょ。」
急に布団をめくられ、牛尾の両手があたしの体の下にねじ込まれた。
「えっ!?ちょっと牛尾!?」
すぐ近くには牛尾の顔。あたしは咄嗟にその首に両腕を回した。
「ひゃあ!」
浮き上がる体。視界のほとんどは牛尾の顔。
たくましい腕は決して軽く無いはずのあたしの体を易々と持ち上げ、その足取りは安心して体を預けられる程しっかりしたものだった。
結果、あたしはあっという間にお姫様抱っこによってベッドに移動させられてしまった。