第5章 予感
「今後のアリス様の為です。あんな使えない駒を、お傍に置く必要はないと思い、出ていく際に掃除しておきました」
「だから簡単に壊されない駒を、用意しておいたわ。素敵でしょう?」
「ええ……今のアリス様は、とても魅力的ですよ」
「貴方のお陰ではないわよ、セバスチャン」
まるで釘をさすように。
ようやく辿り着いた先には、開け放たれた扉があった。
「伯爵!」
勢いよく部屋に入り込めば、中はもぬけの殻だった。アリスは失敗したと、小さく舌打ちした。
「セバスチャン、お前は本当に執事か?」
「あくまで、忠実な」
「主人の身の安全が第一でしょう!?」
「アリス様にそのような、人間臭い言葉を聞く日が来るとは思いもしませんでした」
「……なんですって?」
セバスチャンの胸倉をぐっと掴むと、怖い顔で睨み付けた。そんなもので動じるほど、セバスチャンは甘い男ではないことくらい、十分彼女は理解していたけれど。
「坊ちゃんの命は、アリス様を一番にお守りすること。確かに、契約がある限り坊ちゃんに死の危険が訪れれば私は容赦なく貴女を見捨てるでしょう。けれど私がそうしないのは、坊ちゃんがまだ命の危機に晒されていない証拠。そして……助けろという命が下っていないからでもあります」
「屁理屈執事」
「貴女程じゃありません」
床に落ちていたシエルの眼帯と思われる物を、アリスは拾い上げた。