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黒執事 Blood and a doll

第23章 安息



「綺麗だろ? シエルのやつ、ここだけはセバスチャンに毎日手入れさせているんだ」

「どうして? 別に、庭師がやってもいいんじゃ」

「ここの庭師はおっちょこちょいだからな。すぐ枯らしてしまうんだと」

「ふっ……何それ、庭師なのに」

「やっと笑ったな」


 ソーマは白薔薇を一輪取ると、アリスの髪へとさした。しかし、難しい顔をしてそれを取り去ると、今度は何処から摘んできたのか……コスモスの花を髪にさしてやる。


「お、桃色の花似合うな」

「これ……」

「コスモスだ! 綺麗だろ? 愛らしくて。お前にとても、よく似合っているよ」


 にかっとソーマは笑った。

 アリスは、照れたようにぎこちなく笑って空を見上げた。何処までも広がる空は、終わりがなくて、どんなに手を伸ばしても届くことはない。

 体質のせいで苦手な太陽のはずなのに、もう少し浴びていたいとさえ思える。


 遠くの方で、アグニが叫びながら駆け寄ってくる。


「ソーマ様! あまり長時間アリス様を外へ連れ出してはいけません!! シエル様から聞きましたが、アルビノだそうで!! 太陽が宜しくないと!」

「げっ、そうなのか!? わ、悪い……アリス」


 本当に申し訳なそうに、しゅんと落ち込むソーマを見て、アリスはついに噴出した。


「ぷっ……あはははっ!!」

「アリス!?」

「ふふっ、あははっ……なんて顔してるのよ……ふふっ。可笑しいったらないわ」

「……! 別にいいだろ!!」


 アグニが日傘をアリスへと傾けた。影が出来、アリスから太陽を再び遠ざけていく。名残惜しい気持ちもありながら、アリスはもう一度白薔薇を眺めた。


「そういえば、アリス様。ご存知ですか? 白薔薇の花言葉を」

「ん? いや、知らないけど……以前他の人も私にそんなことを言ってきた気がするわ」


 三人で薔薇を眺めた。アグニが呟いた声は、確かにアリスの耳へと入っていった。



「白薔薇の花言葉は。”私はあなたに相応しい”」


 風が木々を揺らす音が、聞こえた。

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