第20章 牢獄
「私が、彼女に会いたい……などと、どうして。どうしてそんなことが、言えるのだろうか」
自ら塗り潰した黒。裏切り。
視界の端に、アリスらしき人物が映り込む。途端、セバスチャンは小走り気味にその人物へと駆け寄ろうとする。しかし、すぐに人混みに呑み込まれ右も左も身動きの取れない状態へと変わっていく。
「アリス……様っ! アリス……アリスっ」
アリスが振り返った先には、見知らぬ人の波だけ。
「姫様、どうかなさいましたか?」
「いや……今、誰かに呼ばれた気がしたんだけど。気のせいだったのかしら」
「きっと気のせいですよ。さあ、アンダーテイカーのところへ急ぎましょう」
「そうね」
二人が向かった先はアンダーテイカーの店。昼でも薄暗いこの場所一帯は、まるで世界から隔離されたみたいで気分が悪い。小さくノックをして、アリスはその扉を開けるのだった。
「アンダーテイカー。いるわね?」
「おや……これはこれは、アリス嬢。久しいねぇ、何かあったのかい?」
「最近、変死体が届いていたりしないかしら。それも、まるで羽をもがれた天使のように」
「天使……ひひっ、堕天使と呼ぶに相応しい死体なら、いくつか」
アンダーテイカーは興味ありげにアリスを見つめては、陽気に笑みを向けた。彼が今から言おうとしていることなど、彼女にはお見通しだった。勿論、クライヴがその要求に答えるため先に動く。
今日もまた、店の中には怪しいアンダーテイカーの笑い声が響き渡った。