第76章 過去と今の差し替え
「そんな顔をするな。
ここでは同じ兵団の恋人が死ぬことなんて、
特別珍しいことでもない。」
「……でも、」
「大丈夫だ。
もうモブリットは立ち直ってる。」
言葉を遮られ、断言される。
ミケに視線を向けると、
穏やかな表情で顔を覗き込まれた。
「何でそんな言い切れるの?」
「見ていたら分かる。」
「……そう言うもの?」
「ああ。あいつにしては珍しく、
匂いにも出ているからな。」
「匂い?」
「たまにお前の匂いがする。」
……どんな匂いだ。
思わず眉間に皺が寄る。
「女の匂いを消さずに訓練に出るってことは、
訓練直前までお前といた証拠だ。
前までのモブリットなら、
そんな匂い、残していなかった。」
匂いを残す、残さないが、
どういう意味を持つのかはよく分からないが、
ミケの如何にも楽しそうな顔を見る限り、
悪い意味ではなさそうだ。