第1章 古ぼけたスケッチブック
兵長にプロポーズされてから半年が経ったある日。
壁内各地での巡業公演をようやっと終えた私達特別班は、我が家とも呼べる古城の兵舎に久々の帰還をしていた。
公演の合間を縫って準備してきた結婚式は二週間後にまで迫っている。
『わあ……懐かしい』
随分と埃っぽくなった自室。
その片隅に膝をついて荷作りをする私の心はなんだか沈んでいた。
たくさんの思い出が詰まったリヴァイ班兵舎。
二週間後、私はここを出て行かなければならない。
勿論それは夫となる兵長との新居に引っ越すからなのだが、いざ出て行くとなると寂しいものだ。
『色んなことがあったなぁ』
誰に言うでもなく呟いた独り言。
私の腕には古ぼけたスケッチブックが抱かれている。
ところどころ擦り切れてしまっているが、自由の翼と共に刻印されたイニシャルは今でも誇らしげに輝いていた。
パラ……ッ
そっと表紙を捲ってみる。
脆くなったページに綴られているのは過ぎた日の思い出たち。
そよ風吹き込む窓辺に体を寄せて、
私は記憶のカケラを拾い集めていくのであった。
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