第1章 隣の彼は
いつだって、私は彼を見ていた。
一番後ろの席で隣同士の国見英くん。
気付けば彼に恋をしていた私は、授業中も、休み時間の時も、
隣ばかりを見ていた。
もちろん、本人には気付かれない程度に。
・・・今日も眠そう。いつも夜更かししてるのかな。
お話、してみたいなぁ。
内気な私はこんなにも近くにいるのに彼に話しかける勇気はなかった。
だから、こうやって、見てるだけ。
授業中にふああ、と大きなあくびをする彼を見て私は微笑んだ。かっこいいけど、可愛い国見くん。
その時、ちらっと彼が私を見た気がした。
一瞬のことで目が合ったかどうかも分からなかったが、不安に思った私はしばらく隣を見るのを控えることにした。
机の上に何か飛んできたのは、その直後だった。
小さな丸められた紙が、ころん、と私の机の上に転がった。
・・・なんだこれ。
誰かのイタズラかと思いながら紙を広げた途端、心臓が一瞬止まった。
『いつも俺のこと見てるよね?勘違いだったらゴメン』
これを書いた人は、彼しかいない。
ふっと隣を見ると、彼も私を見ていた。
き、気付かれてた・・・!!!
とりあえず謝るべきだと考えた私はすかさずペンを取り出し国見くんの書いた字の下に
『すいません!!』
と殴り書きして、また丸めて隣へと軽く投げた。
それから10秒と経たないうちに、また同じ紙が飛んできた。
『前から視線感じてたんだけど、なんで?』
好きだから、なんて恥ずかしくて書けない。
しばらく悩んだ末、『お友達になりたかったから』ということにした。
『いいよ、友達なろうよ。よろしく』
嬉しさのあまり笑みが隠せなかった。
その日から、国見くんが起きている時は大抵手紙のやりとりをするようになった。内容は、家族のことだったり、部活のことだったり。
国見くんのことを教えてもらうのはとても楽しかった。
まだ直接の会話は恥ずかしくてしたことがないが、手紙を交換する時はいつも胸が高鳴っていた。
『落合さんは英語得意?』
『ううん、あんまり。国見くんは?』
『俺も微妙かな。まず先生が嫌だ』
『私も英語の先生苦手!次、英語だよね』
『げっ・・・ね、落合さん、』
『なに?』
『よかったら次の時間、一緒にサボろうよ』
小さな笑みがこぼれた。
『いいよ。どこ行こっか』