第1章 恋する執事 ー 松本 潤 ー
屋敷が目覚める前に活動を始めるのが俺の日課だ。
庭園で部屋に生ける花を見繕う。個人的にバラが好きなのだが花を飾る部屋の主があまり好まないので秋桜を選んだ。艶やかより控えめなものを好む主人。
『潤が選ぶものはいつも派手なの!私はもっと控えめなものがいい。』
用意した夜会のドレスを突っ返されるのもしばしば。この屋敷を訪れて1年経たずの俺には、まだ主人の好みをつかみきれずにいる。
「きれいな肌してるし、絶対出した方がいい。」
俺の見立ては間違ってないはず。
こんこん
ノックをするが返答がない。確か今日は茶会があったはず。
「お嬢様、入ります。」
扉を開ければカーテンの隙間から日差しが差し込んでいる。部屋の真ん中にあるベットにはふくらみが一つ。小さく溜息をつきながら、部屋のカーテンを開けた。
「今日はお茶会の予定があります。起きなければ支度に間に合いませんよ。」
むずり、と膨らみが動くがそれ以上動く気配はない。
「お嬢様、」
ベットを覗き込めば、手足までがっつりシーツにくるまれたまま。
「起きてください。」
「・・・。」
「起きろ、」
「・・・いや。」
眉間による皺を感じながら俺はシーツに手をかける。
ばさぁっ
「ぃやっ!」
控えめが好みだっていってんのに。
寝間着用のワンピース。淡いピンクにまさしく彼女好み。
「これじゃいつもと真逆だろ。」
身じろぎしたことでめくり上がった裾から見える白い太もも。胸元は大きくひらき、谷間が垣間見える。
「じゅん、まだ寝たいのぉ。」
眠たいせいか伏目がちの視線が俺を誘う。控えめな好きとかなんとか言うくせに。甘え声で俺を呼ぶ声。
「まだ寝たい?」
「んぅ、寝る。」
「茶会はどうします?」
「・・・ここにいたい。」
「それでは俺が怒られてしまいます。」
愛でるように頬を撫でれば、甘えるように擦り寄る姿は猫のよう。
「私のために怒られて・・・。」
「それじゃあ、フェアじゃないですよね?」
「だぁって、」
「じゃあ1回だけ俺の言うこときいてください。」
頷く姿を見届けで、やさしく額にキスをした。
背中があいたないとドレスを用意しよう。
太ももまでスリットが空いたもの。
今宵はそれでディナーにでてもらう。
深い眠りについた主人のうなじに赤い証をつけ、
まだ見ぬ主人の姿にひそかに口端を上げた。