第3章 城からの使者
忘れられないレンとの日々から1ヶ月が経過した。
私の日常は何も変わらない。
泥まみれになりながら牛の世話をしていると、何もない草原の向こうから立派な黒い馬に乗った男の人と、兵士が数人やってきた。
こんな辺鄙な場所に珍しいなぁ、と首を傾げていると黒馬は私の前で足を止めた。よく手入れされていることが一目でわかる、艶やかなたてがみがなびく。
私に用……なわけないよね。
道に迷ったのかな?
「お迎えにあがりました。姫」
颯爽として黒馬から降りた男性が口にした言葉はあまりにも予想外で、私はブラシを握ったまま硬直してしまう。
今、何て……?
誰かと勘違いしてるんだよね。
人違いですって言わなきゃ。
だけれど私をまっすぐに見つめて膝まづいた彼の顔はとてつもなく端正で、私はドキリとしたまま声が出せなくなってしまった。