第2章 彼との出会い
私は小さな国の、小さな町のはずれの牧場で働いている。
父のことは知らないし、母が去年亡くなり身寄りがなくなった私を牧場主さんが雇ってくれた。
住み込みでほとんど休みなく働いているけれど、牛や馬が好きなので仕事は楽しい。
今日も動物たちの世話をしていると、草原の向こうから真っ白な馬の手綱を引いた男の人が歩いてきた。
「あの、この馬ケガをしていて、少し休ませてやってもらえませんか?」
その人は微笑みは上品で、思わず恥ずかしくなって目を逸らす。白馬の方に目を向けると、右足を引きずっていた。
「大変、こちらへどうぞ」
緊張している場合じゃない。
私は、急いで空いている馬小屋に案内した。
右足の状態は思ったより良好で、手当てをしてあげると1週間ほどでよくなりそうだった。
それを伝えると「困ったな、1週間は動けないってことか。あの、近くに宿はありますか?」と眉をひそめる彼。
一番近くの宿は、馬がないと行けない距離だ。私は考えた末「何もない小屋でよかったらお貸しできますが」と答える。
この小屋なら牧場主さんは気が付かないだろうし、困っている人を放ってはおけない。
こんなに手入れの行き届いた白馬に信頼されているんだから、きっといい人なはず。
治療の間、白馬は背中を撫でる彼に安心して、私に身を任せてくれたもの。
「いいんですか?」
「どうぞ」と私はにっこりと笑った。
「私はユイカと申します。
困ったことがあったら言って下さい」
「僕はレン、ありがとう、ユイカさん」
そう言って笑った顔があまりにも整っていて、つい私は見とれてしまった。