第12章 The Great Humbug(東峰旭)
「旭ってさー、みょうじって子と付き合ってんの?」
昼休みに入ると同時に、右隣の席の女子が聞いてきた。「は?」と間の抜けた声が出る。
「えぇっ!東峰っち彼女いるの!?ヘタレなのに!?」
質問に答えるよりも早く、右斜め前に座る女子が、がばりと振り返った。旭にではなく、真後ろの友人に向かって「どんな子?」と尋ねる。
「ほら、あのー…茶髪のポニテの子!旭と仲良いの!」
「あっあっ!進学クラスのでしょ!?私も気になってた!」
「みょうじなまえって言うんだって」
「名前も可愛い」
「この前職員室の名簿見て名前覚えた」
「ちょ、それストーカーや!」
テンポ良く言い合って2人は笑い出した。
箸が転んでもおかしいお年頃。
会話に入るタイミングを逃した東峰は、現役JKを前に硬直してしまった。
「その子、いつも成績順位で名前載るよね」
お弁当を広げつつ、隣の席の女子が言う。「特に英語はいっつも1位」
「英語以外もたまに1位とるよね」
もう1人の女子も、サンドイッチの包装をはがしながら返す。
「テニス部だって」
「すごくね?天才か?神の子か?」
「そんでこんな旭と付き合うっていうのもある意味すごいね?」
「ねー」
「そういうんじゃないよ」
大縄跳びと同じように、自分の入れそうな瞬間になんとか言葉を押し込んだ。2人がこちらを見たので、「中学が同じだっただけで、付き合ってるとかじゃない」と、もう一度否定する。
「なんだー、つまんないの」
「まぁ、旭にはレベル高すぎか。ヘタレだから」
あはは、とまた笑い声が起こり、旭はがっくりと項垂れた。
こういうタイプの女子は苦手だ。口も軽ければ会話の内容も軽い。
「東峰っちってさぁ、動物に例えると気弱な大型犬って感じだよね」
「あ、わかる。雷に怖がっちゃう感じの。それともうさぎかな?」
「うさぎ!キモかわ!」
呆れて怒る気にもならない。幸せそうにサンドイッチにかぶりつくクラスメイトを眺めたその時、彼女の向こうに見える教室の扉が開いてなまえが姿を現した。
「い゛っ!?」と自分でもよくわからない声が出る。
「あ、あさひー!」
なまえは旭の姿を見つけるとこちらに駆け寄った。
あ、彼女さんだー、と隣から囃し立てられて、旭は「ち、違う違う!」と慌てた。