第10章 柘榴石の烏(菅原孝支)
「名前、聞くの忘れちゃったな」
夕焼けに染まる校舎を振り返って、菅原は呟いた。合宿で交流を深めた他校の生徒達の手を振る姿が、ずいぶん小さくなった。
あの後、森然高校のバレー部員に片っ端から彼女のことを訪ねてみたけれど、口を揃えてよくわからない、と言われてしまった。昨年度のコンクールの受賞作品だから、2年生以上なことは確かだろうが、あの作品だけは、制作者の名前は書いていないからわからない、と。
もし今後、美術部に所属している可愛い女子と仲良くなる機会があったら、連絡先を聞いてくれ、そして自分にも教えてくれ、と頼み込んできたけれど、果たして効果はあるだろうか。
効果あるといいなぁ。
足を止めて呆けている菅原を、大地がまた目敏く見つけた。
「スガ、バスに遅れるぞ」
「......うん」
菅原は少し名残惜しそうにしていたが、大地の後に続いて歩き始めた。夏が終われば、春高予選はすぐそこだ。
END