第47章 いつかの夢のパヴァーヌが(菅原孝支)※
そんな男やめとけ、社会人なんてみんなおじさんじゃんか。
そこまで考えて、全部自分の妄想だと気が付いて死にたくなる。でもだってそうじゃん。絶対彼氏いるんだよ、なまえは。同級生の俺なんてガキにしか見えないくらい、大人の人と付き合って、素知らぬ顔して机に座ってるんだ。いかがわしいことなんて、なんにも知りませんよって顔して英語を読んでるんだ。
でも、俺だってきっとなまえのことを悪く言えない。
純粋そうって言われることだってある。きっと恋人に優しいんだろうね、って。
汚れたことなんて何も知らないみたいな顔して黒板を見ているのは俺も同じだ。
でも本当は、彼女をベッドに押し倒したいと思ってる。逃げないように両手を押さえて、タバコの香りがする制服を全部剥ぎとって、その吸い付く様な白い肌に舌を這わせたいと思ってる。
泣かれたって罵られたって止めないで、ネックレスを引きちぎって髪の毛なんてハサミで切って、俺のことだけ見てほしい。は、と漏れてた吐息が、あ、に変わって、その声が喉から鼻の頭に抜けてだんだん高くなっていっても止めないで、細い腰を掴んで滅茶苦茶に身体を揺さぶって、俺のことしか考えられなくなるくらいに、俺の、俺のーーーー
「……がわら、菅原孝支さん!」
「は、はいっ!」
突然名前を呼ばれて驚いた。顔を上げると、黒板の前に立つ先生が不思議そうにこちらを見ている。
「どうしました?次の段落、読んでください」
「あ、えっ、と……」
そろそろと立ち上がりながら、すみません、聞いてませんでした、と小さく言うと、くすくすと女子の笑いが起きた。
「ぼんやりしてちゃダメですよ。46ページ、5段落目からです」
「はい……」
熱の取れない自分の身体が恥ずかしい。教科書で顔を隠すようにして、目の前に広がる単語を声に出していった。なまえの席が斜め後ろで本当によかった。と、頭の隅で考えながら。
END