第45章 11.17 HAPPY BIRTHDAY!!(黒尾鉄朗)
「黒尾!」
「ハイィッ!」
辿り着いた部室の中を覗くと、丁度1歩動こうとしていたのか、黒尾が片足立ちで固まっていた。入り口から汗だくの顔だけを出している俺を見て、頭の上に「!?」の文字を浮かべている。
「これ、やるよ!」
俺は手に持っていたものを放り投げた。反射的にキャッチをした黒尾は、片手に収まるそれを見て眉をひそめた。
「……鍵?」
そう。部室の鍵だ。
黒尾がそれに気を取られているうちに、俺はドアの後ろでへばっているなまえの手首を掴み直した。
「黒尾!」
「あ?」
「誕生日、オメデトウ」
ニヤリと笑ってなまえをぶん投げた。ふぎゃ!と声をあげて床に倒れ込む彼女のパンチラを見る前に、勢い良くドアを閉める。
「ーーーーーー!!!〜〜〜!?!?」
混乱した彼女が何か叫んで、ドアを開けようとしてくる。それを背中で押さえつけて、俺は心の中で祈った。
頼む。18歳の黒尾鉄朗。お前は賢いんだ!空気を読め!素直になってくれ!
走ったせいで、心臓が爆速で脈を打っていた。息を吸っても吸っても苦しい。咳と一緒に軽くえずきながら押さえ続けていると、やがてドアの向こうが静かになった。
彼女が諦めたのか、それとも黒尾が何か話しかけたのか。
どちらにしろ、自分に出来るのはここまでだ。
体重をドアに預けたまま、膝に両手をついて小さく喘いだ。
あー何やってんだろ、俺。
額から汗がどんどん流れてくる。大丈夫だよな。これでいいんだよな。と自分自身に問いかける。余計なお世話じゃないよな。アイツらなら、上手くやってくれるよな。
身体の奥で、妙な疼きが収まらなかった。それでも、邪魔者はとっとと消えるべきだよな、と転がっていた鞄を拾い上げた。肩にかかる重みが辛い。
こんなことばっかやってるから、俺はいつまでたっても彼女ができないんだよなぁ。
ふらふら歩きながら、あはは、と乾いた笑いを口から零す。いや、笑い事じゃないな。これは。
世話焼きの性格は自覚していたけれど、まさか他人の恋愛にここまで首を突っ込むことになるとは。
「誰か俺にも、良い子紹介してくれよー」
紫色に染まる空に、あーあ!と無理に両手を突き出して伸びをした。薄く広がるいわし雲が、いつもより綺麗で泣いちゃいそうだよ。
END