第44章 惚れてしまえばあばたもえくぼ(灰羽リエーフ)
「私さ、リエーフと話してるとさ、なんかいろいろ考えてる自分が馬鹿みたいって思うよ」
目から流れてきた涙を拭いながら言うと、『そんな!』とリエーフが笑った。
『先輩は頭いいことばっかり考えてるじゃないですか!むしろ俺って馬鹿だなぁっていつも思っちゃいます』
「でもさ、頭使って考えても何も良いことないんだ。変にうじうじした私の気持ちをスッパーンって笑いに変えちゃうリエーフのほうが、ずっとずっといいよ」
リエーフと付き合えてよかった。
今まで何度そう考えただろう。思考の沼に沈みそうになったとき、リエーフはいつも私をすくい上げてくれる。いや、すくい上げてくれるっていうより、一本釣りで引き上げてくれると言ったほうがいいかもしれない。
リエーフは単純思考のおバカさんだけど、いつも私の思いつかない突拍子もない方法で、私の悩みを解決してくれるのだ。
「ごめんね、私、いつもリエーフに助けられてるね。何も返してあげられてない」
『助けるとか返すとか、俺にはよくわかりませんけど、別にどうでもいいですよ。だって、好きな人と一緒にいられるんですもん。ただ、先輩がいろいろ考え込んじゃって、悲しい顔してるのは、見ててヤだなとは思います』
「私、幸せかな」
『幸せですよ!』
リエーフはきっぱりと言った。『あったかいベッドの上で、俺と電話できてるんですから!』
「ふふふ、そうかも」
照れくさくなって、布団の中に潜り込んだ。私が考えているよりもずっと、幸せに生きていくことは難しい話ではないのかもしれない。
『そろそろ眠くなってきました?』
深夜の弾けるような彼の声に、全然、と否定をする。「リエーフが笑わせてくるから余計に目が醒めちゃったよ」
『俺も、全然眠くないです。先輩、このまま朝まで話しちゃいましょーよ!』
「うん、いいよ。でもちょっと待って、リエーフお風呂入ってきなよ」
そう言ってスマホ片手にベッドから抜けだした。電気のスイッチを押すと、パッと部屋が明るくなる。
『なんかやることでもあるんですか?』
不思議そうに尋ねる声に「冷蔵庫、漁ってくる」と笑って返した。
「やっぱり、お腹がすいてるだけみたい」
END