第43章 魚は宙に浮かんだままで(山口忠)
誰が毎日考えるんだろう。
白米を頬張りながら、山口はテレビに映る星座占いを見ていた。
次々に発表されていく順位とワンポイントアドバイス。星座は12個あるから、平日5日分でも60個の助言を誰かが考えていることになる。
もしかしたら土日の間に一週間分考えちゃうのかな、使い回しとかあるのかな、なんて野暮なことを想像しながら、今度は味噌汁に手を伸ばす。
『今日は大人しく過ごしたほうがいいかも!?8位と9位はこちらの星座!』
後半の順位になっても自分のさそり座は呼ばれない。でもそれよりも、なまえの星座がまだ出てない。
続く10位と11位にも見当たらなくて、とうとう山口となまえの星座は、1位と12位に揺れるシーソーの両端に乗せられてしまった。
山口はそれを真剣な顔で見守った。箸を止めて、こくんと唾を飲み込んだ。
ゆらゆら揺れた後、勢い良く傾くシーソー。
反動で雲の上まで飛んで行く1つの星座。
『おめでとうございます!今日一番ハッピーなのは、さそり座のアナタ!!』
「あぁ〜……」
明るい音楽と共に選ばれたのは、自分の星座だった。失望の声が口から漏れる。
よりによってどうしてこんな日に。俺が幸福を勝ち取っても意味が無いのに。
12位になったなまえの星座は、シーソーから落下して崖の下だ。紫色の画面に映る最下位へのアドバイスを見て、彼女の不運を断ち切るため、何ができるか考える。
『ラッキーナンバーは9!これに関係のあるものを身に付けると、運が向いてくるかも?』
9と言えば、
山口は頭を悩ませる。9と言えば影山の背番号だけど、でも影山は身に付けられないしな。ストラップみたいにちっちゃくなれば話は別だけど。ユニフォーム……も借りても迷惑だろうし。
迷いと一緒に箸の先もうろうろ迷う。卵焼きを掴みかけて、でもやっぱりとウインナーを摘み上げた。
『10月22日水曜日!今日も笑顔でいってらっしゃーい!』
はつらつとしたアナウンサーの声を聞きながら、もぐもぐもぐと朝食を続ける。笑顔でいってらっしゃい、かぁ。
せめて、同じ言葉をなまえに言って送り出そうかな。