第42章 男女別々放課後青春トークのすゝめ(縁下力)※
【縁下side】
そもそもあの時、空腹を訴えて騒ぐ西谷なんか放っといて、さっさと家に帰ればよかったんだ。
平日の夕方の、混み始めた店内。
部活終わりにやってきた俺たち2年生。
テーブルに案内された時は、田中がレジに可愛い店員がいると騒いでいたからそっちに気を取られてしまっていた。
気が付いたのは席についてから15分後くらい。
運ばれてきた料理の一口目を食べようとした時、ようやく彼女と目が合った。
(あ、)
隣のテーブルに、なまえが座っていた。
テーブル端に座る俺、の正面に座る木下。の、すぐ横。
目が合った瞬間、なまえの身体はピタリと硬直し、彼女が口に運びかけていたフォークからずるりとパスタが落っこちた。それでも目を丸くしてこちらを見ている。
(マジか、なんでこんなとこで、)
「縁下?どうかしたか?」
視界の中に、木下の顔が入り込んできた。「え?」と聞き返してから、自分だってスプーンの前で口を開けた間抜けな状態で固まっていることに気が付いた。「ううん、なんでもない」と笑って、一口分のドリアを口に突っ込む。まだ熱いそれを飲み込みながら、ロボットアニメの話で盛り上がる自分のテーブルの会話に混ざるフリをした。しながら、ばれないように隣の様子を伺った。
なまえも友達の女子たちと来ているみたいだ。高めのトーンで話す友人に顔を向けながらも、ちらちらこっちを見ている。その仕草が可愛かったから、よくわからない機体の違いについて語る西谷のほうに身を乗り出しつつ、組んだ腕をテーブルの上に乗せてこっそり彼女に手を振ってみた。チラッと視線を向けると、彼女は依然顔を横に向けていたけれど、耳まで真っ赤になっている。照れてる姿も可愛いなぁ、なんて、つい口元が緩んでしまった。
なまえは烏野高校の近くにある女子校に通っている。
ひょんなことから仲良くなって、向こうから告白されて付き合い始めた。
(でもまさか、こんなことって)
平日の夕方、混んだファミレスの店内、隣り合ったテーブル、斜め前の席。
手を伸ばせば届きそうなほどの距離に、彼女がいる。