第41章 "You'll be in tomorrow."(岩泉一)
白いTシャツの、襟ぐりで顔の汗を拭って走る岩泉を眺めていたら、ぺちんっと肩に不思議な感触がした。
振り返ると、先生がすぐ横に立っていた。
ボールペンの先で私を叩いたようで、その細めた瞳の言わんとするところを理解して、私は机の上の問題に視線を戻す。
通りすぎていく先生の背中にこっそり舌を突きだした後、右手の人差し指で英文をなぞっていった。
賢いヨウムのアレックス。
人間と会話ができたアレックス。
2歳児の感情と5歳児の知能を持っていた、賢いヨウムのアレックス。
彼の最期の言葉は、じゃあね、また明日。君を愛してるよーーーーーーー
だけどやっぱり、変に空いた行間が気になって、
前の椅子の背もたれの、薄く刻まれた相合い傘が気になった。
羽の長い上向きの、矢印のようなその傘の下に、知らない名前が2人分。
これを刻んだ人たちは、今ごろどこで何をしているんだろう。
今でも1つの傘の下で、肩を並べて歩いているのだろうか。
賢いヨウムの認識能力について、
適切に述べている記号を選ぶ、問4の、
隣に薄く、相合い傘を書いてみる。
左右に開く、傘の下。
1本の縦線に区切られた、右側と左側、
そのどちらにも、自分の名前も彼の名前も書けないまま、甘い香りの風が私の頬を撫でていった。
時間切れの合図と共に、前から配られてくる答案を後ろに回しながら、
今日の放課後に夕日の中を走ってみたら、彼と同じ気持ちになれるだろうか。
そんなことを考えていた、火曜日の午後。
END