第40章 さよなら私。ごめんね、私。(影山飛雄)
私の名前はみょうじなまえ。
どこにでもいる、ごく普通の高校生。
なんて、この出だしで始まる漫画の主人公って、だいたい普通じゃないよね。
転校生とぶつかるだとか、木の上で寝ていたイケメンに話しかけられるとか。
階段から落ちそうになったところを好きな人に抱きとめてもらうだとか。
「あー、なんか面白いこと、起こらないかなぁ」
口癖のように呟いた自分の言葉に『非日常は待つんじゃない、自ら起こすのだ』なんて、適当に自分で名言を作ってみる。ついでにSNSで呟いてみる。
(非日常って、一体なんだろう。)
見慣れた通学路の地面に、ある日突然大きなな穴が空いてたりとか?
タイミングよく烏に襲われて、バランス崩してその穴に落ちちゃったりだとか?
そんでなぜか異世界にトリップしちゃったりして、そこで沢山の男の子に囲まれて、愛されついでに世界も救っちゃったりとか?
なーんて。
そんなこと起こったら、私だったら絶対生き延びていけないな。
「あー、なんでもいいから、何か面白いこと、起きないかなぁ」
家と授業と部活の繰り返しのこの日々にさ、なんか、こう……すごいこと、起きないかな。すごいことってなんだろ。何でもいいんだけどさ。
私の名前は、っつーか名前なんてどうでもいいや。
私は正真正銘、平々凡々。
好きなことは、美味しいご飯を食べること。
嫌いなことは、背後でされる友達のヒソヒソ話。
尊敬する人は、美容師のお母さん。
得意なことは、特になし。
誇れるものも、特になし。
将来のゆめは、日本観光に来たアラブの石油王に運命的に出会い、見初められてそのまま結婚、玉の輿。双子の男女を産んで贅沢の限りを尽くした人生を送り最期は愛する人の腕の中でこの世を去ること。死因は老衰。
苦手なものは、写真とプリクラ。
嫌いなものは、自分の顔。
嫌いなひとは、お父さん。なんて言っちゃう自分。
好きなひとは、
ところでロマンスってさ、すべての女の子に平等に降ってくるって、あれホントの話なのかなぁ。
少女漫画のような展開は、少女漫画の主人公みたいに可愛い子にしか起こらないんじゃないのかなぁ。
なんて、くそつまらないことを考えちゃう可愛くない女の子、それが私だ。