第33章 夜明けを待つロンドン塔(田中龍之介)
「龍!お前どうしたんだよ!?」
廊下から元気な声が飛んできた。「おぉ、ノヤっさん!」なんて言って田中が教室から出て行く。
「なんで部活来てねぇんだよ。遅刻するなら大地さんに連絡しとけって!」
「わりぃ、知らねぇうちに寝ちまってた!!わざわざ迎えにきてくれたのか?」
「だっておま、事故にでもあったんじゃねぇかって、みんなが騒いで練習になんねぇんだもん」
「マジか!?なんか申し訳ねぇな!!走るか!」
バタバタと遠ざかっていく声を聞きながら、私は煩い心臓の音を聞いていた。夜がせまる教室の中で、虚無の穴とは違うものに自分が落ちていく香りがする。
END