第33章 夜明けを待つロンドン塔(田中龍之介)
高校生は、たまによくわからない衝動に襲われる。
「うおっしゃー!!!来いやあああぁぁ!!!!」
有り余るパワーが身体に収まりきらなくて、どうしてもうずうずしてしまう。
「へいへい!ピッチャービビってるー!!」
箒をバットの如く構えた田中が叫ぶ。
くしゃくしゃに丸められた紙が低めの放物線を描いた。
「うおおっ!?」
それを思いっきり空振りして、勢い余ってグルンとよろけた彼の、箒の先が曇り空を映す窓際の花瓶を掠めた。カタカタと揺れるそれを両手でひしと押さえてまた叫ぶ。
「……っぶねー!ギリギリセーフ!!!」
何やってんだよ、田中!という野次と共に男子たちの笑い声が教室に響いた。
「ほんとあいつ、うぜーな」
隣で見ていた友人が長い髪を掻き上げて呟く。それなー、なんて周りの女子たちの同意する声に混じって、私はどっちともとれない苦笑を漏らした。
私達は、たまによくわからない衝動に襲われる。
狭い机に縛り付けられるほどに膨れ上がるどす黒い衝動。
箒をバットにみたてて、くしゃくしゃにした赤点のテストの答案を思いっきり空振りして、それでも抑えきれない衝動。
本物のバットで手当たりしだいに校舎の窓を叩き割って歩き回りたいくらいの、金属製のそれを地面に何度も振り下ろして、へし折ってもそれでも満たされないくらいの、
そんな発作的な情動を、スポーツやアレやなんやかんやで発散できているうちは、きっと健全な証拠なんじゃないかと、私は思う。
「なははは!!んじゃあもういっちょ!!」
だけど、あれはいささか煩すぎる。