第32章 クレオパトラの真珠(縁下力)
私ばかりが怒っていた。
私ばかりが我慢していると思い込んでいた。
ごめんな、って言ってほしかった。
でも本当に言って欲しい言葉はそれじゃなかった。
私ばかりが我慢していると思い込んでいた。
でもそうじゃなかった。
会えない気持ちは縁下も同じだった。
私は、
私はただ一言、
俺も会いたかったよ、寂しかったよって言って欲しかっただけなんだ。
本当にごめん。
自分のことしか考えられない私で本当にごめん。
その言葉を言う代わりに、私は彼のキスに応えた。
言いたい気持ちを伝え合うように、私達はキスをした。
図書館の一番奥の本棚の隅で、誰にも聞こえないように、誰にもばれないように、私達はキスをした。
言わなくても伝わると思っていた。きっと彼も言わなくても伝わると思っていた。
END