第31章 己に如かざるものを(月島蛍)
「なまえ、キミはもっと常識を学んだほうがいいんじゃないの」
「ヤダ。私は私のままが好き。だーいじょうぶ!今回の人は私にべた惚れなんだよ?」
なまえは最後の1口を放り込んで堂々と言った。「今日もこの後デートだしね!」
「え?」
その言葉にまた目を丸くする。「何時から?」
「15時!」
「いや、とっくに過ぎてるよ」
「え、嘘!アラームかけといたのに!」
なまえが慌てて鞄を漁った。スマホを取り出して「うわ、充電切れてる……」と呟く姿に、舞い上がってしまうくらいに嬉しくなる。
「ざぁんねん。また振られちゃうね」
意地悪く言ってやると「まあいいや、いつもこんな感じだし」となまえは適当にスマホをテーブルに放った。
「来る者拒まず去る者追わず主義ですからー」
そう言って紅茶を啜る彼女に、なーんだ、と安心する。なーんだ、やっぱり何も変わってないじゃないか。むしろ変わらなさすぎて心配になるくらいだ。
「ツッキー、これ意味なくなったからあげる」
そう言ってなまえが差し出したのはさっきの雑貨店のロゴが入ったプレゼント。「ハッピーバースデー、ツッキー」
「4ヶ月も早いケド」
「いいよ。遠慮しないで」
「こんなことになるなら、青って言っとけばよかった」
片手でそれを受け取って、自分でも可笑しくて笑ってしまった。「ねえなまえ、暇なら付き合ってよ」
「いいよ」
なまえは隣に待機させておいた次のケーキを目の前に置いて、幸せそうに頬張った。「どこ行きたいの?買い物?」
「その付き合ってじゃなくて」
「え?」
「来る者拒まず去る者追わず主義なんでしょ?」
キョトンとした顔をするなまえを見て、多分この子に合わせられるのは僕しかいないな、なんて自嘲しながら最後に残った苺にフォークを突き立てた。
END