第25章 確かに君が好きだった(夜久衛輔)
楽しそうに揺れる彼女の頭のお団子。ひらめくスカート、左右に振れる細い腕。
購買目指して逃げる彼女を校舎の中まで追いかけると、体育館の喧騒が耳に届く。夢から現実に戻ってきたような気分になる。
曲がり角を曲がると、Tシャツを肩までたくし上げた黒尾とすれ違った。
長い廊下の途中、研磨が面倒臭そうに廊下の端に避けたのが見えた。
それでもなまえは走り続けて、俺はそれを追いかけた。
あっ、先輩! なんて山本の声がどこかで聞こえた。それも無視して追いかけた。
息を切らしながら、いつまでもこうしてなまえを追いかけていれたらいいのに、なんて考えて、俺は笑い声をあげて走り続けた。
(それでも人間は忘却の生き物だ。
あの日交わした言葉はもう覚えていない。
あの灼けるような日差しも、無限に時間があったはずのあの校舎も、
いまはもう一夜の夢のようにおぼろげだけど、
だけど、それでもあの時の感情だけは、未だに俺の心の隅で仄かに揺らめいている。
揺らめいて、消えそうなほど微かに揺らめいて、時々思い出したようにちりちりと焦がしつけるんだ)
確かに君が好きだった
END